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3,「法が守っているのは、秩序だよ。正義じゃない」


 ここ数日は、ジャンヌに従者の仕事を教えていた。
 覚えが早く、気が利く。予想通りではあったが、この少女の能力は、やはり図抜けていた。ドナルドなどは、父にそれを教わっている時に、何度叱責されたかわからない。
 ともあれ、基本的なことは全て教えてしまったので、後は日々の生活の中で実践していくしかないだろう。その場に出くわしてみなければ教えられないような、例外的なものもある。また武術に関しては、元より教えることがない。
 ドナルドが家を出ると、そのジャンヌとアネットは馬小屋を掃除していた。
「ジャンヌに少し、村のことを教えたい」
「わかりました。後は一人でやる。ジャンヌ、行ってこい」
「おじさんと二人きりですね。やったー」
「あまり、誤解されるような言い方はするなよ」
 ドナルドが苦笑しながら歩き出すと、ジャンヌも飛ぶようにしてその側についた。
「全部は見て回れないが、村の仕組みというかな、ブリーザ村がいかにして成り立っているのかを、教えるぞ」
「んん、政事ですね」
「そんなに、難しい話ではないさ。だが、それぞれの役割についても話しておくよ」 村の中央に向かう。ここはちょっとした広場になっており、大きな井戸と、周囲にはぽつぽつと家々が並んでいる。東に少し行ったところには、この村唯一の酒場。山を背にしており、そこはこの村の東端でもある。柵に囲まれた居住区は、この場で一望できるくらい、ごく小さなものだ。村民の多くは、西側の柵の向こうの、農場に住んでいる。南側には村長を任せるジャコの家と、鍛冶屋、そしてこの村唯一のパン屋があった。
「酒場には二泊程しているから、様子はわかっているな」
「はい。ギュスターヴさん、とってもいい人でした」
「酒場の主人は、その村の領主、ここでは私が決めることになっている。これはブリーザの決まりというより、レザーニュ伯領全体の決まりだ」
「へええ。何でですか」
「村の監視役、という名目なんだ。まあ余所では、村民が反乱を起こさないか、見張る役割なのだな。不穏な動きがあれば、私に報告がある」
「この村には、そういうのなさそうですねえ」
「ありがたいことにな。だから今まで、そんな報告があったことはない。たまに怪しい旅人がいれば、その知らせが来ることはある。それとギュスターヴには、なるべく村人の不満を聞いてやってほしいと頼んである。密告にならない程度に、そんな話が私の耳に入ることはあるよ。不満や改善点は、村人が直接私に言ってくることが多い。ただ、領主は陰口を叩かれるのも仕事だと思っている。私に言えない話を、私があえて聞くようなことはしていないな」
「え、でも、密告の為に酒場の主人を決める権利を持ってるってことですよね?」
「その通りだが、決まり通りやっているだけだ。私は、村の人間を信頼したいんだよ」
「んー、おじさんですねえ!」
「私らしいということかな? まあ、私にその器量がなければ、追い出されても仕方ないと思っている。ただ実際に反乱が起きてしまうと、余所の領主がこの村の支配を目論むこととなろう。私より優れた領主ならそれでいいとも思っているが、そうとは限らないからな。なので村人が不満を抱くようなこと自体を、防がなくてはならないと思っているよ」
 広場を横切り、村の南へ向かう。すぐに、東西に走る川のほとりに出た。側には水車小屋、洗濯場、共同浴場がある。ここからは見えないが、木々に隠れる形で、絞首台もあった。
「風呂と洗濯場は、毎日来ているからわかるな。あの水車小屋だが、粉を挽く際、製粉したものの一部か、金銭を村に納めることになっている。要は、税だな。先程のパン屋も、竃の使用料が税として集められる。ちなみに粉挽きも私の任命するところだが、代々酒場の息子や娘がやっているよ」
 橋を渡ると、すぐに森になる。細い道が南に向かっているが、先の方までは見渡せない。
「この村の主な産業は、林業だ。木材を加工して町に運び、売る。そこで入ったお金が、この村の主な収入源といったところかな。税としてもいくらか取り立ててしまうが、どう使うかの采配は、概ね村長のジャコに任せてある」
「広大な森ですねえ」
「もっとも、この森は御料林なんだ」
「ごりょう、りん?」
「レザーニュ伯領内、そして私の治める村だが、この森の所有権は、アッシェン王家にあるんだよ。なので、収益の一部は王家に納めることとなっている。王が持ち主で、私が間借りして管理しているような感じかな。もっとも本当の管理人は御料林長官という役職の者で、たまにその使いの役人がここを訪れては、商いの書類を見て、税を持っていく。森で狩人が獲っていい獲物も決まっていてな。兎や狐といった小動物はいいが、鹿や猪といった大物を狩るには御料林長官の許可がいる。事前に獲る頭数の許可は獲ってあるが、不作の時には、事後承諾で先に獲る時もある。その辺りは、柔軟に対応してもらっている」
「でもこれ、獲った頭数とか、チョロまかすことはできますよねえ」
「まあ、上手くやればな。ただ不正はばれてしまうと面倒だし、何より信用を損ねる。まだ私が若い頃、規定数を超えて鹿を狩る者たちがいた。すぐに御料林長官に報告し、違反した賠償金は全て私が払ったよ。その者たちには一応罰を与えたにも関わらず、泣いて許しを請うてきてな。以来、この村では目立った不正はないし、不可抗力で違反した時には、その者が正直に報告してくるようになった」
「はあぁ。おじさんらしい話です」
「公正にやっている。それを上にも下にもわかってもらえれば、いざという時に、あるいは平時でも多少の融通はきくものさ。ずるいことはやらない、というのは私の性格もあるのだろうが、同時に周囲を守る知恵でもある」
「融通って、どんなとこですか」
「もう何代もご来訪されていないが一応、御料林は王が狩りをする場所なんだ。なので基本的に、鹿や猪を狩ってはならない。が、狩らなければ数が増え過ぎる。なのでこちらの狩りの名目は間引きなのだが、この数は決まっていない。御料林長官の裁量次第だが、この村は信用できるということで、その数は他の村に比べて随分多いんだ。この森は他の村の管轄とも繋がっていてな。ずっと南の村では不正が多いので、鹿や猪を狩ってはいけない決まりとなった。そこで増えた獲物を、こっちで獲れるという寸法なのさ」
「なるほどぉ。いや、おじさんがただの人の好いおじさんじゃなくて、ちょっと安心しました」
「こらこら。あまりおじさんを馬鹿にするもんじゃないぞ」
「大変なご無礼を、ドナルド閣下。いかなる処罰をも、甘んじて受ける所存にございます」
 ジャンヌは胸に手を当て、片膝をついた。ちろりと桃色の舌を出したことを除けば、その所作は完璧である。
 広場へと戻った。ちょうど仕事から帰ってきたのだろう一団が、二人に手を振る。
「酒場の後ろ、あの山の頂きに、この村の教会がある」
「小山ですけど、ミサの度に登るんですか。私は大丈夫ですけど」
「足の悪い者や年寄りは、荷馬車で運ぶことになるな。上までは、三十分くらいか。あの山の向こうがシャルルの村でな。二つの村が同じ教区に属していることになる。戸籍の管理は、あの教会が行う」
「あ、じゃあ何気に私、まだアルク村に住んでることになってます?」
「あるいは母君が既にアルク村の教区に移住の申告をしていたら、どこにも属していないことになるな」
「うわぁ。まあ書類上のことなんでしょうけど、私、どこにもいない人になってるかもしれないんですねえ」
「明日のミサの際に、きちんと登録するよ。ジャンヌはもう、この村の一員だ」
 それからも二人で村を見て回り、日が陰る頃に家に戻った。アネットが、夕餉の支度をしている。この居間を除けば、部屋がいくつかあるだけの、小さな家である。部屋の隅の棚には、この村の記録と、ドナルドが記した法の冊子があった。
「ここにあるものは、好きな時に見てもらって構わない。これは、この地方の法をまとめ、私なりの解釈を添えてあるものだ」
「ん? 法って、きちんとした法典みたいのがあるんじゃなくて、ちょっと曖昧なんです?」
「成文法のことを言っているのかな。そういうきちんとしたものがある地方もある。だがこの辺りは慣習法なんだ。これまでの経験や判例から、こうであるだろうという判断を領主が行うことになっている。判断に困る時や大きな案件に関しては、移動裁判官の沙汰に従うといったところだな」
「へえぇ。じゃあやっぱり、領主が悪い人だと、悪い政になっちゃうんだ」
「解釈の余地が大きいからな。そういう領地もあることだろう」
「おじさんの、裁量次第なんですねえ」
「そうだな。責任重大だ。もっとも、役人たちなど、政に関して私より権限や知識のある者は多い。私一人でこの村の全てを司っているとも思ってないよ」
 そんな話をしていると、夕食の支度が済んだので、三人は席に着いた。祈りを終えた後もアネットは相槌以外に話に絡んでこなかったが、目は、この一連の会話を楽しんでいるように思える。
「法って、不思議ですよねえ。なくちゃいけないものだってわかりますけど、なんであるんだろうって気もします。税の徴収や、悪人を裁く為にあるんでしょうけど、良くない税の取り方や、むしろ悪い領主を守る為にある法もありますよね。そういうのまで守るのって、逆に正義にもとるというか・・・」
「法が守っているのは、秩序だよ。正義じゃない」
 アネットが、話に乗ってきた。
「私も子供の頃に、似たような疑問を抱いたことがある。その時に叔父上は、そう教えてくれたんだ」
「ああ、なるほどぉ。って、おじさん、そういうことは最初に教えて下さいよ」
「いや、お前が自分で考えられるところまで、考えるべきかなと思ったんだ」
「それは失礼しました、叔父上。ジャンヌにも悪いことをしたかな」
 二人は笑ったが、ジャンヌはその丸い顔を一層丸くしてむくれている。
「ああ・・・でも、振り返ってみると、そうか。法が守るのはあくまで秩序で、正義とか道徳とか、そういうものじゃない」
「法と正義が、重なる時もある。泥棒や詐欺、人殺しを裁く時がそうだ。ただ、ジャンヌのその見方は、きっと正しい。法が、必ずしも正義を守るわけではないことは、留意しておくべきだな。そして法以上に移ろいやすい正義は、時に暴走する。法を守りつつ、いかにして村人を守っていくか。私には、法を変える力はない。だからこれからも、三人で一緒に考えていこう」
 言うと、ジャンヌは満面の笑みを浮かべた。
「この村で、おじさんの元にいれて、本当によかったです」
「良いことばかりじゃないぞ。これでも結構、苦労しているんだ」
「そうですね。でも私、おじさんをしっかり支えますから」
 その細い腕に作った力こぶを叩きながら、少女はもう一度笑った。

 

 旅は、向いていないのかもしれない。
 まとめた荷物を馬に積みながら、アナスタシアはそんなことを考えていた。
 霹靂団壊滅後の放浪以前に、遠征等で数えきれない程の旅をしてきた。人生の多くを、旅の空で過ごしてきたといってもいい。しかしかつての自分には、帰る家があった。どんなに苦しい旅路も、帰る家があればこそ、耐え忍べたのかもしれない。戦後、長くパリシの同じ場所に滞在したせいで、既にそこを自分の家のように感じていた。離れることが、つらいのだ。
 そろそろ、腰を落ち着けたい。顔馴染みとなった城勤めの兵たちと別れの挨拶を交わしながら、そんな思いもこみ上げていた。郷愁とは違う。スラヴァル、スターリィツァのあの家に、帰ることはないだろう。帰りたいとも思っていなかった。しかし胸を押し潰されながら、反するように穴が空いたような莫とした気持ちは、確かにある。
 厩の中で、アナスタシアは半ば衝動的に、鞄を開けた。折り畳んだ、ぼろぼろの旗を取り出す。霹靂団が壊滅したあの日、グレゴーリィから受け取った三角旗だった。
 槍から引きちぎるようにして手渡されたので、所々破れている。血の染みは、何度か洗ったが完全には落ちなかった。
 もう一度この旗を掲げ、俺たちの団長になって下さい。
 熊のように吠えた副官の声が、脳裏に響く。
 その後の、グレゴーリィの消息は知らない。自分に何かあれば任せることになっていた、後継者だった。大分歳上だったが、何故か弟のようにも思っていた。アナスタシア以上に、祖国に裏切られたことに傷ついていただろう。
 生き残った団員たちは今も、この旗が再び掲げられる日を待っているのだろうか。
 何故か一歩も動く気になれず、仕方なくアナスタシアはパイプを取り出した。三角旗を広げ、しばし見つめる。耳を澄ませても、厩の馬たちのいななきしか聞こえなかった。旗が再び、何かを語りかけてくることはない。
 ここが、帰る場所だったのだろうか。霹靂団。しかしもう、失われてしまっている。いや、生き残った団員たちは、きっとこの旗を掲げるアナスタシアを、待っている。
 小さく首を振り、アナスタシアはパイプをしまった。北の大地には、遠い。霹靂団も、全てが遠過ぎた。
 愛馬が、鼻をなすりつけてくる。もうここを離れよう、そう語りかけているようだった。しかしアナスタシアの足は、何かを待っているかのように、重い。
「あ、ここにいたんですねー!」
 厩の中に、明るい声が響いた。外の光を背に受け、入ってきたのはアニータだった。
「まだ、パリシにいたのか。急がないと、青流団に追いつけなくなるぞ」
「ああ、それならもういいんですよ。それより、こっち来て下さい」
 手を引かれ、アナスタシアは厩を出た。もう一度、歩き方を思い出したかのようだった。
 外には、二十人程の男女がいた。エルフや、ドワーフもいる。何人かは顔を覚えている、青流団の面々だった。
「どうした。お前たちはもう、隊に戻らないのか」
 そんな気がして、アナスタシアは聞いた。アニータが、悪戯っぽい目で口を開く。
「ええ。私たち、青流団をやめて、アナスタシア団長の下につくことにしたんです」
「なにを。私はもう、傭兵はやめている」
「やめて、また始まるんですよ」
「簡単に、言うな」
「それ、旗ですか。ちょっと見せて下さい」
 手に持ったままだった旗を、アニータは引ったくるようにして広げた。
「霹靂団の旗ですかね。これ、もう一度掲げましょうよ。新生霹靂団、ここに爆誕!」
「なんなんだ。お前たちも、こいつと同じ考えか」
 元青流団たちは頷き、一様に同意の声を上げた。
「私はもう、行くぞ。お前たちも私なんかにこだわらずに、好きに生きるがいい」
 馬を引いて、兵舎を出る。団員たちは、どこまでもついてきた。
 日は中天を指し、大通りには露店が並んでいる。昼飯を求める人の行き交いは多い。美味そうな匂いも漂っていた。
 アナスタシアは足を止め、すぐ後ろをついてくるアニータに、半金貨を手渡した。
「腹も減ってきただろう。これで、ついてきた連中に、美味いものでも食わせてやってくれ」
 アニータが露店に向かうのを確認してから鞍に跨がろうとしたが、すぐに引きずり下ろされた。
「ちょっとちょっとぉ! 何逃げようとしてるんですか。団長も、一緒に食べるんですよね?」
「先を急ぐ」
「なら、あの串焼きにしましょう。歩きながらでも食べられますし」
 仕方なく、人数分が焼き上がるのを待った。串焼きの肉を頬張りながら、釣り銭を数える。半金貨などを渡してしまったので、帰ってきた小銭は多い。財布が、いきなり重たくなった。金が減ったのにだ。ただ、この串焼きは美味い。
「お前たち、本当に私の元につくのか」
 いかにも屈強な、あるいはしなやかに鍛え抜いた肉体を持った男女に、声を掛ける。聞くと、アニータが声を上げ、それに賛同した者たちのようだった。いずれも一目で、強兵だということがわかる。立ち振る舞いから、すぐにでも将校として使えそうな者も多い。
「そういえば団長、これからどこ行くんですか」
 手についた脂を舐めながら、アニータが問う。
「ノルマランだ」
「ああ、あの蜜蜂亭の亭主に、早速弟子入りするんですか」
「そこまでわかっていて、何故ついてくる」
「いいじゃないですか。私たち、勝手についていくだけですし」
「お前たちの面倒を、みなければいけなくなる」
「今回はたっぷり稼がせてもらいましたし、節約すればしばらくは仕事なくても大丈夫ですよ。団長の邪魔は致しませんので、お構いなく」
「いきなり二十人もついてきたら、気を遣うだろうが。だが、それがお前の選んだ道なのだな」
 数日前、このアニータから相談を受けた。一歩踏み出せ。アナスタシアはそう伝えた。
「ルチアナとは、道を分つのだな」
「はい。知ってました? 姉さんって、大事な人とは必ずぶつかるんですよ。フェルサリさんしかり、団長しかり」
 自分も、ルチアナにとって大切な人間だったのだろうか。ただ、あの屈折した天才は、初めて会った時からアナスタシアに敵意を剥き出しにしてきた。
「そうか。お前は、ぶつからなかったか。双子の妹だったからじゃないのか」
「母さんとも、父さんとも衝突してました。あれは姉さんの愛情表現みたいなものなんですよ」
「嫌なヤツだな」
「でしょう? だから私、姉さんの前に立つんです。振り向いてもらう必要なんてないですよ。あの人はいわば、山の頂きを目指さなくてはいられない人ですから。それなら私は団長の傍らに立って、山を下っていけばいいんです。そうすれば、嫌でも姉さんの前に立ちはだかって、ぶつかることになりますから」
「対峙するか、姉と」
 団員たち共に、城門を潜る。小さくとも、それは行軍だった。パリシ解放の際に火の海となった壁外はもう、掘建て小屋の集落ができつつあった。
「はい。って、どうしたんですか、また嫌そうな顔をして」
「お前も見かけによらないな。私を利用し、周りを巻き込んでまで果たしたい願いか。私には、お前がちょっとまぶしいな。それと、私は嫌そうな顔をしていたか。いや、とことん面倒くさい姉妹だな、と思っただけだ」
「ひどいですねえ。これでもすごく、勇気のいる決断だったのに」
「少し、ルチアナに同情するよ。お前みたいな妹を持つと、苦労しそうだ」
 アニータの、姉への劣等感は相当なものだ。戦場で会うとすれば、命のやり取りになる。いや、殺したい程に、超えたい存在なのか。このぱっとしない、どこにでもいそうな小娘はしかし、あの麒麟児と同じくらいに、屈託を抱えているようだった。そして、どうしようもなく真っすぐなところもある。
 妹は、命を懸けて姉と向き合うことを決意した。姉は、どうか。
 後ろの兵から受け取ったのか、アニータが槍に霹靂団の旗を取り付けていた。壁外の町を抜ける。街道には、旅人や行商の姿が見えた。
 先頭に立ったアニータが、槍をかかげる。薄汚れた三角旗が束の間、強い風に煽られて広がった。
「新生霹靂団のお通りですよ! みなさん、道を空けて下さい!」
「やめろよ、恥ずかしい」
 同意するように、馬が一声、いなないた。
 どちらの声に呼応したのか、今のアナスタシアにはわからなかった。

 

つづく

 

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